今回のエリジオン・アカデミーのテーマはDFMです。DFMはDesign for Manufacturabilityの略で、製造時に起こり得る問題をあらかじめ設計段階で考慮する取り組みです。昨今はほとんどの企業が3Dで製品の設計を行っています。この3Dデータと、エリジオンの形状処理技術を活用することで、設計・製造プロセスにDFMを取り入れることができます。本来の仕事に集中できないDFMが実現できていない場合、どのような問題が起こるかまず見ていきます。まず、設計者が本質的な設計業務に没頭できません。「もっと良い商品にするにはどうすればよいか」「もっと高性能にするには」「もっとコストを抑えるには」「もっとデザインを良くするには」を考えることが本来の設計者の仕事です。設計者がこの本来の仕事に専念できるように、設計標準を設け、各設計者がこれを守ることで一定の品質を担保しようと取り組んでいる企業も多いと思います。通常、この設計標準にはDFMに関わる項目も多く含まれています。例えば、材料がプラスチックであれば、成形不良の観点から肉厚をチェックする項目が設けられているはずです。一見すると、これによって設計者の業務が効率化できそうですが、この設計標準を守るためのチェック作業にこそ多く時間が費やされているのが実情です。実際多くのお客様から「設計標準が多岐にわたっている。DFMに関するものでも数百項目ある」といったお話を伺います。そして「人が一つ一つ該当箇所を探して必要な部分の距離を計測したり、リーダーがそのチェック作業に忙殺されたりと、本来やるべき仕事ができていない」というお悩みもよく伺います。設計標準を守るためのチェックはあくまで付帯作業です。設計者が本来の業務に集中できるようにするには、この付帯作業を自動化しなければなりません。また、DFMが機能していない状態では、設計の後の製造工程で問題が発生し、大きな損失が出ます。一般的に、問題の発生が後工程になればなるほどプロセス全体のリードタイムが延び、コストが増加することが知られています。これを防ごうとDFMに取り組む企業も多いのですが、実際には設計者がCADソフトウェアの操作画面上で特定のかたちを目視で探したり、必要な箇所を手作業で計測したりしながら対応しています。このやり方では当然、人によって品質はばらつき、後工程での手戻りが減りません。DFMのノウハウが引き継がれない問題さらに、技術者のノウハウが企業に蓄積されず、同じ問題が繰り返される状況がいつまでも解決されません。製品不良が発生すれば、多くの企業では直ちに原因が分析され現場教育などの再発防止策が施されますが、時間が経つとその効果は薄れ、また問題が発生し、そして前回と同じような対策検討のプロセスが繰り返されます。製品の成形不良によって外装の問題が発見された場合には、勾配を緩やかにすることで問題を解決することができます。例えば、一度そのような対応ができたにもかかわらず、担当者が変わると対策が忘れられまた同じような不良が起きた、といった事例が実際にありました。ノウハウを蓄積して継続的な対策を施すには、ノウハウをプログラム化し、ものづくりのプロセスに織り込んで定着させる必要があります。かたちに着目して問題を解決するDFM Studioこれらの問題を解決するため、エリジオンはDFM Studioを開発しました。DFM Studioは、製造工程での不具合につながる形状をCADモデルから自動検知するソフトウェアです。難しい操作は不要です。3D CADデータがあれば、誰でも手軽に製造性をチェックすることができます。後工程で起きる問題にはさまざまな要因があり、さまざまな打ち手があります。例えば、金型の冷却方法を変えたり材質を変えたりする方法です。そうした打ち手の中で効果の高い方法の一つが、設計されたかたちを見極め、問題の起きないかたちに修正する方法です。製造性は設計段階で80%が決まると言われており、設計段階でかたちをしっかりと見定めることで、結果的にプロセス全体のリードタイムが短縮され、製品の品質を向上させられます。かたちを見極めるアプローチについて、樹脂成形のヒケを例に説明します。ヒケとは厚肉部で固化収縮が起き、製品の表面が厚肉の中心に向かって引っ張られることで起こる不具合です。ヒケを解決する手段はいくつかあります。具体的には、金型で解決する方法や材料を変える方法、金型の温度調整などの成形条件を変える方法です。それらと並ぶアプローチとして、DFM Studioは形状特徴に着目して問題の解決を目指します。例えば、ヒケに関連する形状特徴は厚肉部であり、極端な厚肉を避けることでヒケの問題を防ぐことができます。かたちの認識・計測・判定のプロセス実際どのような形状特徴からどのような問題にアプローチするか、より具体的に紹介します。DFM Studioでの設計品質評価には三つのプロセスがあります。最初は品質に影響する部位の特定です。この例では、3D CADデータに含まれる穴を自動で認識しています。次に、認識された部位に対して、品質基準の因子となる箇所を計測します。この例では、穴の径(D)と穴の深さ(L)を計測しています。最後に、良否の判定です。つまり、計測された値が標準に収まっているか判定します。例えば、穴の加工精度を保つために穴の深さと径の比を5以下にするという標準があった場合、計測結果が5以下であれば合格、そうでなければ問題ありと自動で判定します。このような部位特定・計測・判定の三つのプロセスで、製造性の問題をかたちから見極められるのがDFM Studioです。全自動の設計データ品質検査DFM Studioには、三つの特長があります。一点目が全自動であることです。二点目がカスタマイズ性、そして三点目が他システムとの親和性です。多くの企業では、設計段階での製造性を確認するために、設計者がCADモデルを目視で確認しながら、問題になりそうな箇所をCADソフトウェアの機能を使って一つずつ計測する作業を繰り返しています。製造性をチェックするソフトウェアを使っていたとしても、何らかの複雑な操作やプロセスが必要になっているのが実情です。そこでDFM Studioの開発においては、CADモデルから特定の部位を抽出し、その部位に対して計測、さらにその値を標準に照らし合わせて合否を判定するという三つのプロセスを、全て自動で行うことにこだわりました。エリジオンはこれまで、35年以上にわたって形状処理に携わってきました。この形状処理の技術を活用することで、CADモデルから意味のある特徴的な形状を自動で認識することができます。穴・ボス・リブ・アンダーカット・肉厚・クリアランスなどさまざまな特徴形状を自動で認識します。この自動認識がCADソフトウェアの設計履歴を利用しているのではなく、あくまでかたちから認識していることが、エリジオンの技術の強みです。DFMのための充実した検証項目樹脂や板金については、必要な検証項目がプリセットされています。なお、お客様からの要望を受けて定期的に検証項目を追加しています。検証の内容を全て自分で定義するのは困難ですが、DFM Studioを導入すればプリセットされた項目を利用しながらすぐに製造性の検証を始められます。見やすい計測結果の表示DFM Studioは計測箇所や計測した値を見やすく画面に表示します。任意の計測箇所を選択すればその箇所の周辺だけ表示されます。断面を表示しながら確認することもできます。ここではボスの断面を表示していますが、この断面は人が調整したものではなく、あらかじめ認識した形状をもとにDFM Studioが適切な断面位置を計算し、その部分を表示しています。検証結果は3Dのビュー表示だけではなく、エクセルのレポートにもできます。レポートの中にはビューの画面キャプチャーが貼り付けられます。このエクセルファイルをエビデンスとして保存したり、技術文書の元データとして活用したりするお客様がいらっしゃいます。初心者の利用も想定したシンプルな操作ここからは、DFM Studioの実際の利用方法をデモでご覧いただきます。%3Ciframe%20src%3D%22https%3A%2F%2Fplayer.vimeo.com%2Fvideo%2F652754960%3Fh%3Ddb26bece93%22%20width%3D%22640%22%20height%3D%22360%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22autoplay%3B%20fullscreen%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3EDFM Studioをお使いのCADソフトウェアに組み込むことで、CADソフトウェアの画面から設計データの検証を実行できます。まず、上のメニューから開いたダイアログから、どのような検証を行うかを選択します。ダイアログでは、樹脂要件・板金要件などの検証内容や、検証結果のレポート出力の要否を選びます。続いて、検証用のパラメーターのしきい値を指定します。つまり、利用者はどの項目をどんなパラメーターで検証するかを設定するだけで、設計品質を検証できます。そして検証結果は、エリジオン独自のビューアーで確認することができます。ビューアーでは、検証結果がリスト化されます。今回、薄肉とボスの例をお見せします。リストの一つをクリックするとモデル内の薄肉の箇所がハイライト表示されます。またリストから、薄肉はCADモデル内に計3箇所あることもすぐに確認できます。リストのいずれかをダブルクリックすることで、その箇所がズームアップされ、設計者は手間なくそれを修正すべきか確認できます。続いてボスの例です。緑色で表示されているボスは、検証した結果問題がなかった箇所、赤のボスが問題ありと判定された箇所です。どのボスに問題があるか一目で分かります。さらにそのボスがなぜ問題があるかビューアー上で簡単に確認することができます。リストの列にさまざまなアルファベットが表示されていますが、それぞれが検証項目を表しており、問題がなければ「〇」、問題があるものに「×」が表示されます。例えば「ID 1」は「t」が「×」と表示されており、これは側面の肉厚に問題があることを表しています。これを見ながら、設計者は実際に修正するべきか判断していきます。他の例では、「ID 3」の「H」が「×」になっています。これは高さが標準外であることを表しています。こちらもワンクリックでボスの断面を表示することができ、確認した上でこの箇所の評価を変えたり、場合によっては「修正する」などのコメントを残したりすることができます。この情報はレポートに出力する際に自動で転記することもできます。この機能を活用することで、DFM Studioによるレポートを従来の帳票の代わりとして利用することができます。つまり、従来はCADモデルとは別に帳票の作成にも手間や時間がかかっていましたが、DFM Studioだけで、検証から帳票作成までの作業を完結させることができるようになります。DFM Studioは3Dデータの扱いに慣れていない初心者の利用を想定しており、利用者は、それぞれの検証項目の意味や検証の目的をまとめたドキュメントをDFM Studioの画面からすぐに参照できます。先にも述べましたが、DFM Studioからレポートを出力することができます。ビューアーでリスト表示された内容が全てレポートに含まれます。CADモデルのキャプチャー画像がレポートに含まれていますが、これは検証実行時に自動で取得されたものです。左の画像はボスの位置を示しており、右の画像でそのボスがどんな断面になっているか、どういう形状であるか分かりやすく示しています。このエクセルファイルのレポートだけでも、検証結果の詳細を十分に確認できます。つまり、DFM StudioをインストールしていないPCであっても、誰でも検証結果を閲覧することができ、エクセルファイルを通じて円滑にコミュニケーションをとることができます。CADの画面とのリアルタイム連動設計者は、CADソフトウェアで設計をしながら適宜DFM Studioを利用して製造性を確認し、問題のある箇所をCADソフトウェアに戻って修正、そしてまたDFM Studioで再検証する、といった操作を繰り返すことで、製造性の観点から見て高品質の設計データを作り上げていくことができます。その際、DFM StudioのビューアーとCADソフトウェアの画面はリアルタイムで連動するため、DFM Studioで発見した問題をCADの画面ですぐに確認することができます。カスタマイズで思い通りの検証が可能にDFM Studioのもう一つの特長はカスタマイズ性です。設計標準は各社にとってノウハウの塊と言えます。そのため、お客様ごとに検証項目を作りこめる仕組みが備わっていることは重要なポイントです。DFM Studioはカスタマイズ性が高く、それぞれのお客様が独自のノウハウを組み込みやすい仕様になっています。具体的には、判定に使われるしきい値や表示方法はお客様自身で変更することができます。プリセットされていない独自の検証内容を開発してほしいと要望をいただくこともあります。その場合は、詳しいお話を伺った上で、エリジオンが開発を請け負っており、これまでに100以上の検証項目を開発・提供してきました。また、一部のお客様にはエリジオンの形状認識・計測の技術をAPIとして提供し、お客様自身でスピーディーに独自の検証項目を開発していただいています。DFM Studioから始める製造業DXお客様とお話をしていると、DFMの知識が、社内に少数しかいないスペシャリストの頭の中にだけあって、組織として共有されていないというお悩みをよく伺います。DFM Studioではそうしたノウハウを形式知にすることができ、結果としてスペシャリストの頭の中にある情報を組織で共有することができます。ただし、ノウハウの抽出や設計ルールの見直しには時間と手間がかかるため、DFM Studioのようなソフトウェアの導入を躊躇するお客様もいらっしゃいます。そのような場合でも、DFM Studioでは樹脂や板金についての検証項目がプリセットされていますので、まずはこちらをお使いいただくことでDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた最初の一歩を踏み出していただけると考えています。CADモデルのかたちを使った新しい取り組みへ本日は製造性の観点から、設計データのかたちがどのような価値を持つかお話しました。実は、かたちの価値が発揮されるのは製造性の検証という分野にとどまりません。例えば、製造性に近いところで言えば、「組付性」もかたちが大きく関わる分野です。他にも、製品の「安全性」を検証する際にかたちは重要な情報になります。また、何かの標準をもとにCADモデルをチェックするだけではなく、コストの算出に利用したり、NC加工パスを生成するための元データとして出力したりするなど、かたちの情報はさまざまな利用の仕方があります。3D CADデータを活用できるシーンは多岐にわたります。ぜひ一度エリジオンにお問い合わせください。